訪問看護 医療保険レセプトの書き方と点検チェックリスト
訪問看護の医療保険レセプト(訪問看護療養費明細書)の正しい記載方法を、記載例と点検チェックリストで解説します。よくある記載ミスTOP10とその防止策、2026年改定対応、国保連フォーマットへの転記ミス削減策まで網羅した管理者・事務担当者向けガイドです。
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訪問看護の医療保険レセプト(訪問看護療養費明細書)の正しい記載方法を、記載例と点検チェックリストで解説します。よくある記載ミスTOP10とその防止策、2026年改定対応、国保連フォーマットへの転記ミス削減策まで網羅した管理者・事務担当者向けガイドです。
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訪問看護ステーションにとって、BCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)の策定は、2024年4月から完全義務化されました。自然災害・感染症・システム障害など「まさか」の事態が起きたとき、在宅療養中の利用者を守れるかどうかは、事前の備えにかかっています。
ところが、「何から始めればいいかわからない」「テンプレートはあるが記入方法がわからない」「義務化されたがどの程度まで作れば合格なのか」という管理者の声は後を絶ちません。未策定のままでは2025年4月から介護報酬が1%減算されるというリスクも現実のものになっています。
本記事では、訪問看護ステーション向けにBCP策定の全体像を解説します。義務化の経緯と未策定時のペナルティ、自然災害・感染症・システム障害の3パターン別対応計画まで網羅しています。そのまま使えるテンプレート、利用者の優先順位付け(トリアージ的アプローチ)、訓練・見直しの年間スケジュールも実務で使える形にまとめています。
この記事を読み終えるころには、「何から手をつければいいか」が明確になります。全国訪問看護事業協会が公開しているひな形を使えば、最短30日間でBCP策定が完了します。まだ策定できていないステーションは、今月中に着手することを強くお勧めします。
BCP(Business Continuity Plan)は日本語で「事業継続計画」と訳されます。災害・感染症・システム障害など「重大インシデント」が発生したときに、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短時間で復旧させるための計画書です。
BCPは単なる「緊急時マニュアル」ではありません。マニュアルは「何をするか」の手順書ですが、BCPは「どの業務をいつまでに、どの水準まで回復させるか」という経営上の意思決定を含んでいます。
具体的には以下を定めるものです。
訪問看護ステーションは、ほかの介護事業所とは異なる固有のリスク構造を持っています。
在宅という孤立した環境
利用者は自宅で療養しています。災害・感染症が発生したとき、施設であれば内部のスタッフが対応できますが、在宅の利用者は基本的にひとりです。訪問看護ステーションが機能しなくなれば、利用者への支援が途絶えます。
医療依存度の高さ
訪問看護の利用者には、人工呼吸器・経管栄養・中心静脈栄養など生命維持に直結する医療処置が必要な方が多くいます。訪問が1回抜けるだけでも重大な健康被害につながりかねません。
移動前提の業務形態
訪問看護師は常に移動しながら業務を行います。大雨・大雪・地震直後は道路が通れなくなります。「スタッフは無事だが訪問できない」という状況が起こりえます。
情報の分散
利用者情報・訪問スケジュール・指示書などが紙や複数のシステムに分散していると、緊急時に情報が集まらず対応が遅れます。
小規模事業所の多さ
訪問看護ステーションは平均スタッフ数6〜7名程度の小規模事業所が多数を占めます。スタッフが数名欠けるだけで業務継続が困難になります。
これらの特性から、訪問看護ステーションのBCPは「机上の計画」ではなく、実際に動けるレベルまで作り込む必要があります。
BCPとよく似た言葉に「BCM(Business Continuity Management・事業継続マネジメント)」があります。BCPが「計画書そのもの」であるのに対し、BCMは「計画の策定・教育・訓練・見直しを含む継続的な管理活動全体」を指します。
厚生労働省のガイドラインでは、BCPを策定するだけでなく、BCMとして継続的に運用することを求めています。「計画書を作る → 職員に教える → 訓練する → 見直す」というサイクルを繰り返すことが、BCPの実効性を担保します。義務化の要件で「研修・訓練・定期的な見直し」が明記されているのは、BCMの考え方に基づいています。
訪問看護のBCP義務化は、一夜にして決まったわけではありません。2011年の東日本大震災を契機に介護・医療分野でのBCP整備議論が始まりました。2016年の熊本地震、2018〜2020年の相次ぐ豪雨災害を経て、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が後押しする形で義務化が決まりました。
第1段階:2021年(令和3年)介護報酬改定
2021年4月の介護報酬改定で、すべての介護サービス事業所に対してBCP策定が「努力義務」として盛り込まれました。同時に、3年間の経過措置が設けられました。
第2段階:2022年(令和4年)診療報酬改定
2022年の診療報酬改定(医療保険)においても、訪問看護ステーションに対してBCPの策定が求められました。これにより、介護保険・医療保険の両面でBCP策定の方向性が固まりました。
第3段階:2024年4月——完全義務化
2024年(令和6年)4月1日をもって、BCP策定が完全に義務化されました。3年間の経過措置が終了し、以下の要件がすべて義務となりました(出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」)。
| 義務化された要件 | 内容 |
|---|---|
| BCP策定 | 感染症BCP・自然災害BCP(2種類)の策定 |
| 委員会の開催 | BCP推進委員会(または担当者)の設置 |
| 指針の整備 | 行動指針・運用ルールの文書化 |
| 研修の実施 | 年1回以上の職員研修 |
| 訓練の実施 | 年1回以上のシミュレーション訓練 |
| 職員への周知 | 全スタッフへの周知・共有 |
| 定期的な見直し | 定期的な更新・改定 |
出典:一般社団法人全国訪問看護事業協会「BCP(業務継続計画)策定について」(https://www.zenhokan.or.jp/bcp/)
訪問看護ステーションに求められるBCPは1本ではありません。厚生労働省・全国訪問看護事業協会のガイドラインでは、以下の2種類の策定が求められています。
①感染症BCP 新型コロナウイルス感染症・インフルエンザ等の感染症が流行した場合に、事業を継続するための計画です。職員が感染・濃厚接触者になった場合の対応、感染防護具の備蓄、利用者への感染対策などを定めます。
②自然災害BCP 地震・洪水・台風・大雪などの自然災害が発生した場合の計画です。避難、安否確認、代替業務の手順などを定めます。
2種類とも策定が義務です。いずれか1種類のみでは要件を満たしません。
2024年4月から義務化されたBCP策定ですが、経過措置として「2025年3月31日まで」は減算が適用されない猶予期間が設けられていました。
2025年4月1日以降——BCP未策定の訪問看護ステーションは、介護報酬が**所定単位数の1%(1/100)**減算されます。
出典:カイポケ訪問看護マガジン「業務継続計画未策定減算について」
具体的な減算対象は以下の通りです。
1回500単位の訪問であれば5単位(約50〜60円)の減算です。一見小さく見えますが、月100件の訪問があれば月500単位、年間6,000単位の減算となります。
この減算には重大な注意点があります。
「減算は行政指導で発見された時点ではなく、基準を満たさない事実が生じた時点まで遡及適用される」(カイポケ訪問看護マガジン)
つまり、2025年4月1日以降に運営指導(旧:実地指導)が入り、「BCPが未策定だった」と判明した場合、遡及して不備のあった期間全体について減算を受ける可能性があります。半年間未策定だったなら、半年分の減算が一度にのしかかります。
「バレなければいい」という考えは通用しません。BCPの策定状況は以下のタイミングで確認されます。
運営指導(旧:実地指導) 都道府県・市区町村が訪問看護ステーションを対象に実施する指導です。BCPの有無・内容・訓練実施記録などを確認されます。
加算の届出時 BCP策定を要件とする加算(例:業務継続計画加算など)の届出時に審査されます。
事故発生・報告時 災害や感染症対応で行政に報告が必要な事態が発生したとき、BCPの発動状況が問われます。
直接的な刑事罰はありませんが、「BCPを策定していれば防げた被害」が発生した場合、法人が民事上の賠償義務を負う可能性があります。
たとえば、大雨警報が出ているにもかかわらず連絡体制が整備されておらず、利用者が孤立して重篤化した場合——「BCPを策定し適切な対応を取っていれば防げた」として、損害賠償を請求されるリスクがあります。
BCPは義務だから作るのではなく、利用者を守るために作るものです。その認識で取り組むことが大切です。
特別養護老人ホームやデイサービスなど施設系サービスのBCPと、訪問看護のBCPは根本的に異なります。
施設系サービスでは、「建物内にいる利用者をどう守るか」が中心です。ところが訪問看護では、「各自の自宅にいる利用者をどう把握し、どう支援に向かうか」が中心となります。
この違いが訪問看護BCP固有の課題を生み出しています。
課題①:利用者への安否確認の困難さ
施設なら建物内を確認すれば済みますが、訪問看護の利用者は自宅に分散しています。大規模災害時には電話がつながらないことも多く、100名規模の利用者全員の安否確認には多大な時間と人手がかかります。
課題②:移動手段の確保
道路の損壊・冠水・交通規制などにより、通常の移動手段が使えなくなります。自転車・バイク・徒歩での対応ルートを事前に検討しておく必要があります。
課題③:医療機器の電源確保
人工呼吸器・在宅酸素・輸液ポンプなどの医療機器は電力が必要です。停電が発生した場合、これらの機器が停止すると直ちに生命の危機につながります。電力会社への優先復旧依頼の登録状況確認や、バッテリー残量管理が必要です。
課題④:薬剤・衛生材料の在庫切れ
災害・感染症拡大時には、薬局や医療材料業者からの供給が止まる可能性があります。緊急時の最低在庫(バッファー)を設定しておく必要があります。
課題⑤:スタッフ不足時の業務カバー
感染症流行時にはスタッフが次々と休む状況が起こります。残ったスタッフだけで全利用者を訪問することは物理的に不可能な場合があります。どの利用者を優先するか、どこと応援体制を組むかを事前に決めておく必要があります。
課題⑥:情報システムへの依存
電子カルテ・請求システムが停止した場合、利用者情報へのアクセス・記録業務・請求業務がすべて止まります。紙のバックアップや代替手段の準備が必要です。
訪問看護ステーションのBCP策定は、以下の6つのステップで進めます。「完璧なものを一気に作る」のではなく、まず80点のものを作り、訓練・見直しを通じて改善していく姿勢が欠かせません。
所要時間の目安:2〜3時間
最初にBCP策定の「なぜ」と「誰が進めるか」を決めます。
基本方針の設定
経営理念・サービス理念を踏まえ、「緊急時においても何を守るか」を明文化します。
例:「大規模災害・感染症が発生した場合においても、医療依存度の高い利用者への訪問看護サービスを最優先で継続し、在宅療養の継続を支援する。職員の安全確保を前提に、地域医療体制の一翼を担う責任を果たす。」
推進体制(BCP委員会)の設置
| 役割 | 担当者 | 主な責務 |
|---|---|---|
| BCP統括責任者 | 管理者(看護師長・所長) | BCP発動判断・対外連絡 |
| BCP副責任者 | 副管理者 | 統括責任者不在時の代行 |
| 安否確認担当 | ベテラン看護師(指名) | 利用者・職員の安否確認 |
| 業務調整担当 | 訪問調整担当者 | 訪問スケジュールの再調整 |
| 物資・設備担当 | 事務担当者 | 備蓄・機器の管理 |
| 情報・記録担当 | 指名看護師 | BCP発動ログ・記録管理 |
小規模ステーション(スタッフ5名以下)の場合は兼任で構いません。「緊急時に誰が何をするか」が明確になっていることがポイントです。
所要時間の目安:3〜4時間(チームで実施)
自分のステーションが直面しうるリスクを列挙し、「発生確率×影響度」でスコア化します。
リスクの分類
| リスク分類 | 具体例 |
|---|---|
| 自然災害 | 地震(震度5強以上)、台風・暴風雨、洪水・浸水、大雪・凍結、土砂崩れ |
| 感染症 | 新型ウイルス感染症、インフルエンザ集団感染、ノロウイルス集団感染、食中毒 |
| システム障害 | 電子カルテ停止、請求システム障害、インターネット回線障害 |
| 停電・ライフライン障害 | 長時間停電、断水、ガス供給停止 |
| 人的リスク | 管理者の急病・不在、スタッフの大量欠勤、交通事故 |
| 火災・建物被害 | 事務所火災、隣接建物火災、建物損壊 |
リスクスコアマトリクスの活用
各リスクを「発生確率(1〜5点)×業務影響度(1〜5点)」でスコア化し、優先的に対策すべきリスクを特定します。
地域の特性(海岸沿い・河川近傍・積雪地帯など)を反映させることが求められます。過去に地域で発生した災害を調べ、そのリスクを高く評価しておいてください。ハザードマップ(国土地理院・各自治体提供)の確認は必須です。
所要時間の目安:4〜6時間
「今の事業所の状態でどこが弱いか」を把握します。
資源の現状把握チェックリスト
人員面
施設・設備面
情報・システム面
物資・備蓄面
連携体制面
所要時間の目安:3〜4時間
通常業務を棚卸しして、緊急時にどの業務を続けるか/縮小するか/一時停止するかを決めます。
業務の3分類
| 分類 | 定義 | 訪問看護での例 |
|---|---|---|
| 優先業務(継続必須) | 利用者の生命・安全に直接関わる | 人工呼吸器管理者への訪問、ターミナルケア、褥瘡処置 |
| 縮小業務(縮小して継続) | 重要だが一時的な縮小が許容される | 定期訪問(頻度を減らす)、リハビリ的訪問 |
| 一時休止業務(停止可) | 一時的な停止が許容される | 新規利用者受け入れ、加算算定のみの書類作成 |
また、業務ごとに「目標復旧時間(RTO)」を設定しておきます。
| 業務 | RTO(目標復旧時間) |
|---|---|
| 人工呼吸器管理者への訪問 | 発災後2時間以内 |
| ターミナルケア訪問 | 発災後3時間以内 |
| 高度医療処置(点滴・褥瘡処置等) | 発災後6時間以内 |
| 一般的な定期訪問 | 発災後24〜48時間以内 |
| 書類・請求業務 | 発災後1週間以内 |
所要時間の目安:8〜16時間(最も時間がかかるステップ)
ステップ1〜4の情報を元に、実際の対応計画を文書化します。
各シナリオ(自然災害・感染症・システム障害)について以下の項目を記載します。
記載すべき基本項目
所要時間:初回周知2〜3時間、以降は年間スケジュールに従い実施
策定したBCPは「作っておしまい」では意味がありません。職員全員が内容を理解し、実際に動けるようにするための訓練と定期的な見直しが必要です(詳細は第11章で解説します)。
緊急時にすべての利用者への訪問を同等に継続することは困難です。限られたスタッフ・移動手段で最善の支援を届けるためには、あらかじめ利用者の優先順位を明確にしておく必要があります。これは医療現場のトリアージ(傷病者の重症度・緊急度に応じた対応優先度の分類)と同じ考え方です。
軸①:医療依存度(最重要)
生命維持に直結する医療機器・処置の有無で最初に分類します。
軸②:生活状況(介護力・独居かどうか)
利用者の生活状況も重要な判断基準です。
同じ医療依存度であれば、介護力が低い・独居の利用者を優先します。
軸③:緊急時の連絡可否
安否確認の連絡が取れるかどうかも判断材料になります。
軸④:ステーションからの地理的距離・アクセス
道路の被害・通行止めの状況によっては、アクセスが困難な利用者が生じます。緊急度が同等であれば、到達可能な利用者を先に訪問し、困難な利用者は代替支援(電話での状態確認・連携機関への依頼)を検討します。
以上の4軸を総合して、利用者を優先度グループに分類した「利用者優先度リスト」を事前に作成しておきます。
注意点
利用者の状態は変わります。優先度リストは、担当スタッフの変更・利用者の状態変化・新規利用者の追加の際に必ず更新してください。少なくとも4半期に1回は見直しをかけることを推奨します。
また、このリストは個人情報を含むため、取り扱いに十分注意してください。電子データはアクセス権限を管理し、紙媒体は鍵付きの場所で管理します。
以下のいずれかに該当した場合、自然災害BCPを発動します。
| 発動トリガー | 基準 |
|---|---|
| 地震 | 震度5強以上(ステーション所在地または訪問エリア) |
| 台風・暴風雨 | 特別警報発令、または暴風警報発令時 |
| 大雨・洪水 | 洪水警報以上、またはステーション周辺に避難勧告以上 |
| 大雪 | 大雪警報発令、または積雪30cm以上で移動困難 |
| その他 | 管理者(または代行者)が「事業継続困難」と判断した場合 |
【発動直後:0〜15分】
① BCP統括責任者が発動を宣言
② 全職員への緊急連絡(LINE/電話ツリー)
③ 事務所・スタッフ自身の安全確保を最優先
【15〜30分】
④ 職員の安否確認(全員の状態・現在地を把握)
⑤ 訪問中スタッフの安全確認・帰還指示
⑥ 事務所の被害状況確認
【30〜60分】
⑦ 利用者の安否確認開始(優先度リストの順に電話)
⑧ 訪問継続可否の判断
⑨ 連携機関(主治医・ケアマネ・行政)への第一報
連絡手段の優先順位
大規模災害時は音声電話がつながりにくくなります。LINEやSMSなどデータ通信ベースの連絡手段を優先してください。
安否確認フォーマット(LINE送信文例)
【BCP発動・安否確認】
〇月〇日〇時〇分に「〇〇災害BCP」を発動しました。
以下を返信してください。
①氏名:
②現在地:
③安否:(a)無事 (b)軽傷 (c)重傷 (d)行方不明
④訪問中の場合:利用者名と現在状況
⑤今後の出動可否:(a)可能 (b)不可能 (c)〇時間後に可能
返信できない場合は家族等に連絡をお願いします。
職員の安否確認が完了したら、利用者の優先度リスト順に安否確認を行います。
電話がつながらない場合の代替手段
安否確認の記録
確認できた利用者・できない利用者を一覧で記録します。「未確認」リストは継続して確認を試み続けます。
【判断フロー】
ステップ1:道路状況の確認(行政・Google マップ・地域の情報)
↓
ステップ2:移動手段の確認(車・自転車・徒歩の可否)
↓
ステップ3:利用者優先度リストを参照
↓
ステップ4:「訪問可能なスタッフ数」×「訪問可能エリア」で
訪問できる利用者数の上限を算出
↓
ステップ5:優先度レベルAから順に訪問割当て
↓
ステップ6:訪問できない利用者には電話確認+代替支援の手配
人工呼吸器・在宅酸素・輸液ポンプを使用している利用者には、特別な対応が必要です。
停電発生時のチェックリスト
平時から準備しておくこと
電力会社の「在宅医療等での人工呼吸器等使用者への優先復旧サービス」に登録するよう、利用者・家族に案内してください。また、停電時のバッテリー切れまでの時間を把握し、その時間内に必ず確認・対応できる体制を整えておく必要があります。
事務所が浸水・倒壊などで使用できなくなった場合の代替拠点を事前に決めておきます。
新型コロナウイルス感染症の流行は、訪問看護ステーションに深刻な打撃を与えました。スタッフが次々と感染・濃厚接触者になり、訪問件数が急減した事業所は少なくありません。感染症BCPは、このような状況でも可能な限りサービスを継続するための計画です。
| 発動レベル | 基準 | 対応内容 |
|---|---|---|
| レベル1(注意) | 地域で感染症流行開始 | 標準的な感染対策強化、情報収集 |
| レベル2(警戒) | 職員または利用者に感染疑い発生 | PCR検査・濃厚接触者調査、訪問体制見直し |
| レベル3(発動) | 職員に感染確定、または著しい欠勤(30%以上) | BCP正式発動、業務縮小・優先化 |
| レベル4(最大発動) | 欠勤50%以上 | 最小限の優先業務のみ継続 |
ゾーニングの考え方
感染症対応では「感染エリア」と「非感染エリア」を物理的・時間的に分ける「ゾーニング」が有効です。
感染疑い利用者への対応
スタッフのゾーニング
スタッフ欠勤率別の業務縮小計画
| 欠勤率 | 対応方針 |
|---|---|
| 0〜20% | 通常体制。業務量調整で対応可能 |
| 20〜30% | 残業・訪問回数増で対応。新規受け入れ一時停止検討 |
| 30〜50% | BCP発動。優先業務に集中。縮小業務の頻度削減。協力事業所への支援要請 |
| 50%以上 | 最大発動。最優先業務のみ。行政・関係機関に状況報告 |
職員に感染症陽性確定
↓
① 該当職員は即時業務停止・自宅待機
② 濃厚接触者の特定(直近2週間の接触記録を確認)
③ 濃厚接触者に当たる職員の自宅待機・PCR検査
④ 訪問中に利用者と接触していた場合は主治医・ケアマネへ連絡
⑤ 欠員状態での業務継続体制を即時組み立て
⑥ 行政(保健所)への報告
⑦ 訪問スケジュールの再調整
⑧ 残スタッフへの過度な負担集中を防ぐため、
協力事業所・応援体制の発動
感染症流行初期には、マスク・手袋・ガウン・消毒液が一斉に不足します。平時からの備蓄管理が鍵となります。
推奨備蓄量の目安(スタッフ10名規模のステーション)
| 品目 | 推奨備蓄量 |
|---|---|
| サージカルマスク | 3,000枚以上(3ヶ月分) |
| N95マスク | 500枚以上(感染対応専用) |
| 手袋(ニトリル) | 3,000双以上 |
| 使い捨てガウン | 500枚以上 |
| アルコール手指消毒液 | 10L以上 |
| 次亜塩素酸ナトリウム | 5L以上 |
| フェイスシールド | 20個以上 |
備蓄物資は「先入れ先出し」で使用期限を管理します。月1回の在庫確認と補充を徹底してください。
感染症BCPには、利用者・家族への平時からの指導内容も含めておきます。
訪問看護ステーションの電子化・ICT化が進んだことで、業務の電子システム依存度は年々高まっています。電子カルテ・請求システム・スケジュール管理ツールが停止した場合、業務全体に深刻な影響が出ます。
一方で、「システム障害」を自然災害・感染症と同等のリスクとして認識しているステーションは、まだ少数派です。2024年の全国各地でのシステム障害事案(大規模なクラウドサービス障害等)は、デジタル依存のリスクを改めて示しました。
| 障害種別 | 発動基準 |
|---|---|
| 電子カルテ障害 | 2時間以上の利用不能、またはデータ消失リスクがある場合 |
| 請求システム障害 | レセプト提出期限(月10日)まで3日以内に障害が継続している場合 |
| インターネット回線障害 | 4時間以上の回線断絶 |
| 停電 | 1時間以上の停電(非常用電源が尽きる前) |
電子カルテが停止した場合でも、訪問看護の現場業務は継続しなければなりません。
紙カルテへの切り替え手順
紙バックアップカルテに記載すべき最低限の情報
このリストは月1回更新します。印刷した紙は鍵付きキャビネットに保管し、クラウドストレージにも保存しておきます。
業務継続の判断基準
電子カルテが使えなくても、紙カルテで対応できる限り訪問継続します。ただし、以下の処置については電子カルテの情報が確認できない状態での実施を避けてください。
これらの場合は、主治医への確認を優先します。
対応優先事項
停電発生直後は以下を即時確認します。
重要データのバックアップ体制
| バックアップ対象 | 手段 | 頻度 |
|---|---|---|
| 電子カルテデータ | クラウドストレージへの自動同期 | 毎日自動 |
| 請求データ | 外部HDDへのバックアップ | 週1回以上 |
| 利用者情報(マスタ) | クラウドストレージ + 印刷保管 | 月1回更新 |
| BCP文書 | クラウドストレージ + 紙保管 | 更新のたび |
| スケジュール情報 | 週単位の印刷 | 毎週月曜 |
停電が長引く場合(12時間以上)
現在、多くの訪問看護ステーションはクラウド型の電子カルテ・記録システムを使用しています。クラウドサービス自体が障害を起こした場合(プロバイダー側の障害)は、自ステーションでは対処できません。
事前に確認しておくこと
使用しているクラウドサービスの「SLA(サービス水準合意)」「障害時の補償・対応方針」「過去の障害実績(稼働率)」を確認しておきます。月次の稼働率が99.9%でも年間8.7時間は障害が発生しうる計算です。
また、クラウドサービスの障害情報は、サービス提供者の「ステータスページ」や公式SNSで発信されることが多いため、確認先を把握しておきましょう。
災害時でも利用者情報と訪問記録にアクセスできる体制は整っていますか?看護レポはクラウド型なので、スマートフォンさえあればどこからでも記録の閲覧・入力が可能です。 → 看護レポを無料で試してみる
以下のテンプレートを自ステーションの情報に合わせて記入してください。記入例を参考にしながら、実際の状況に合わせてカスタマイズしてください。
【BCP基本情報シート】
策定日: 年 月 日
最終更新日: 年 月 日
次回見直し予定: 年 月 日
■ 事業所情報
事業所名:
所在地:
電話番号:
FAX番号:
メールアドレス:
管理者氏名:
■ BCP推進体制
統括責任者(管理者): 緊急連絡先:
副責任者: 緊急連絡先:
安否確認担当: 緊急連絡先:
業務調整担当: 緊急連絡先:
物資・設備担当: 緊急連絡先:
情報・記録担当: 緊急連絡先:
■ BCP発動の判断権限
第1順位(統括責任者):
第2順位(副責任者):
第3順位( ):
■ 主要連絡先
行政(保健所・市区町村):
協力医療機関:
バックアップ事業所(感染症応援):
バックアップ事業所(自然災害応援):
電力会社緊急連絡先:
電子カルテ会社緊急連絡先:
【利用者優先度リスト】
最終更新日: 年 月 日
担当管理者:
優先度レベル定義:
・レベルA(最優先):生命維持機器使用・ターミナル・独居+高医療依存
・レベルB(高優先):高医療依存+介護力不安定
・レベルC(中優先):定期処置だが1日程度の遅延許容
・レベルD(低優先):健康観察・リハビリ中心
※このリストは個人情報を含む。取り扱い厳重注意。
No. | 利用者名(イニシャル) | レベル | 主な理由 | 緊急連絡先 | 備考
----|---------------------|--------|---------|-----------|----
1 | | | | |
2 | | | | |
3 | | | | |
(以降、利用者数分追加)
■医療機器使用利用者(別掲)
利用者名 | 機器の種類 | バッテリー持続時間 | 電力会社登録 | メーカー連絡先
---------|----------|---------------|------------|----------
| | | □登録済み |
| | | □未登録 |
【自然災害BCP 発動チェックリスト】
発動日時: 年 月 日 時 分
発動理由:
発動判断者:
□ 初動対応(0〜15分)
□ BCP発動を全職員に通知(LINE/電話)
□ 自分自身・事務所の安全確保
□ 訪問中職員の安全確認・帰還指示
□ 職員安否確認(15〜30分)
□ 全職員の安否確認完了
□ 安否不明職員:(氏名: )
□ 負傷職員:(氏名: )
□ 出動可能スタッフ数: 名
□ 利用者安否確認(30分〜)
□ レベルA利用者の安否確認開始
□ レベルB利用者の安否確認開始
□ レベルC・D利用者の安否確認開始
□ 安否未確認利用者リスト作成
□ 訪問継続判断
□ 道路状況の確認(行政・Google マップ等)
□ 移動手段の確認
□ 訪問優先順位の決定
□ 連携機関への連絡
□ 行政(保健所・市区町村)への報告
□ 主治医への連絡(重要利用者)
□ ケアマネへの連絡
□ バックアップ事業所への連絡
□ 記録
□ BCP発動ログの開始
□ 被害状況の記録・写真撮影
□ 対応経過の時系列記録
【感染症BCP 発動チェックリスト】
発動日時: 年 月 日 時 分
感染症名:
発動レベル: □レベル2(警戒) □レベル3(発動) □レベル4(最大発動)
発動理由:
□ 初動対応
□ 感染者・濃厚接触者の特定
□ 濃厚接触者に当たる職員への連絡・自宅待機指示
□ 感染防護具の在庫確認・不足品の緊急調達手配
□ 体制再構築
□ 欠員状況の把握(欠勤率: %)
□ 縮小業務・停止業務の決定
□ 感染チーム・非感染チームの分離
□ 応援要請(必要な場合)
□ 利用者対応
□ 感染疑い利用者の訪問体制見直し
□ 訪問優先順位の再確認
□ 訪問できない利用者への電話確認体制
□ 行政・関係機関への報告
□ 保健所への報告(感染確定者発生時)
□ 主治医・ケアマネへの情報共有
□ 利用者家族への状況説明
□ 感染拡大防止措置
□ 感染対策強化の全職員周知
□ 感染防護具の使用方法確認
□ 接触記録のつけ方確認
【職員緊急連絡先一覧】(個人情報・厳重管理)
最終更新日: 年 月 日
No. | 氏名 | 職種 | 携帯番号 | LINE ID/メール | 居住エリア | 車の有無 | 備考
----|------|------|---------|--------------|----------|---------|----
1 | | | | | | □有 □無 |
2 | | | | | | □有 □無 |
(以降追加)
■ 電話ツリー(安否確認の連絡順)
管理者
├── 副管理者(副管理者不在時は3番目の人)
├── スタッフA → スタッフB → スタッフC
└── スタッフD → スタッフE → スタッフF
【備蓄物資チェックリスト】
チェック担当: 確認日: 年 月 日
■ 感染防護具
品目 | 目標在庫量 | 現在庫量 | 使用期限 | 補充要否
サージカルマスク | 枚 | 枚 | | □要 □否
N95マスク | 枚 | 枚 | | □要 □否
使い捨て手袋 | 双 | 双 | | □要 □否
使い捨てガウン | 枚 | 枚 | | □要 □否
アルコール消毒液 | L | L | | □要 □否
次亜塩素酸ナトリウム | L | L | | □要 □否
フェイスシールド | 個 | 個 | | □要 □否
■ 非常用物資
品目 | 目標量 | 現在量 | 備考
非常食(スタッフ3日分)| | |
飲料水(スタッフ3日分)| | |
携帯充電器・モバイルバッテリー| 個 | 個 |
懐中電灯・予備電池 | | |
救急セット | | |
現金(小額) | 円 | 円 |
■ 記録・情報系
□ 利用者情報の紙バックアップ(最終印刷日: )
□ BCP文書の紙バックアップ(最終印刷日: )
□ 職員緊急連絡先一覧の紙バックアップ(最終更新日: )
□ 主要連絡先一覧の紙バックアップ(最終更新日: )
□ 週間訪問スケジュールの印刷(印刷日: )
BCPを策定しただけでは義務化の要件を満たしません。2024年の改定では、以下の活動が年間を通じて求められています。
研修・訓練を実施しなかった場合も、2025年4月以降は介護報酬1%減算の対象となります。研修・訓練実施の記録(日時・参加者・内容)を保存しておいてください。
| 月 | 活動内容 | 所要時間の目安 |
|---|---|---|
| 4月 | 年度開始:BCP内容の全職員周知・確認 | 1〜2時間 |
| 5月 | 利用者優先度リストの更新(年度変わりで変化が多い) | 1〜2時間 |
| 6月 | 感染症BCP訓練(梅雨前に実施) | 2〜3時間 |
| 7月 | 備蓄物資のチェック・補充(夏の感染症シーズン前) | 1時間 |
| 8月 | 台風・大雨対応の事前確認(台風シーズン前) | 1時間 |
| 9月 | 自然災害BCP訓練(防災月間に合わせて実施) | 2〜4時間 |
| 10月 | 訓練の振り返り・BCP改定 | 2〜3時間 |
| 11月 | 新規採用スタッフがいる場合の追加研修 | 1〜2時間 |
| 12月 | 備蓄物資のチェック(年末の感染症シーズン前) | 1時間 |
| 1月 | システム障害BCP確認(年度末の請求に備えて) | 1時間 |
| 2月 | 大雪・感染症(インフル)対応確認 | 1時間 |
| 3月 | 年度末BCP総点検・次年度計画策定 | 3〜4時間 |
①机上訓練(テーブルトップ演習)
実際には動かず、シナリオを口頭・書面で確認する訓練です。「震度6強の地震が発生しました。今から2時間でできることを考えてください」といったシナリオを設定し、各自の行動を確認します。
所要時間:2〜3時間 参加者:全職員 実施しやすさ:高い(特別な準備不要)
机上訓練のシナリオ例
シナリオ:大雨警報発令時の初動対応
状況設定:
- 今日は午前10時。訪問中のスタッフが4名いる。
- 気象庁が大雨警報を発令。川の氾濫注意情報も発令。
- 午後の訪問は10件予定されている。
- 管理者は外出中(30分後に戻る予定)。
設問:
Q1. 誰が何の判断をすべきか?
Q2. 訪問中のスタッフへの指示内容は?
Q3. 利用者への連絡順番は?
Q4. 午後の訪問をどう判断するか?
Q5. 記録はどうするか?
②実践訓練(実際に行動する)
実際に連絡手段を使って安否確認を行ったり、紙カルテへの切り替えを試みたりする訓練です。
所要時間:2〜4時間 参加者:全職員(ローテーションで実施可) 実施しやすさ:中程度(事前準備が必要)
実践訓練の例
研修で扱うべき内容
研修記録簿に残すべき項目
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施日時 | 年 月 日 時〜 時 |
| 実施形態 | 集合研修・オンライン・個別等 |
| 内容・テーマ | (具体的に記載) |
| 参加者名簿 | 全参加者の署名・押印 |
| 欠席者と対応 | 欠席者名・補填研修の実施予定 |
| 実施者署名 | 管理者署名 |
この研修記録は運営指導(旧:実地指導)で確認されます。必ず保存してください。
BCPは「一度作れば完成」ではありません。以下のタイミングで必ず見直しを行います。
定期見直し 年1回(3月〜4月の年度変わりに合わせて実施すると習慣化しやすい)
臨時見直し
Q1. 小規模ステーション(スタッフ3〜5名)でもBCPは必要ですか?
はい、規模に関係なくBCP策定は義務です。スタッフ数が少ない事業所ほど、1人の欠員が事業継続に直結します。ただし、内容はステーションの規模・実態に合った現実的なものにしてください。大規模施設と同じレベルのBCPを求められているわけではありません。
全国訪問看護事業協会が公開しているひな形を活用すれば、コンパクトに策定できます。
Q2. BCPと災害対策マニュアルの違いは何ですか?
災害対策マニュアルは「緊急時に何をするか」の手順書です。BCPはそれに加えて「どの業務をいつまでにどの水準で回復させるか」「誰がどの判断権限を持つか」「利用者への影響をどう最小化するか」という経営上の計画を含みます。既存の災害対策マニュアルがある場合は、それを「BCPの一部」として取り込む形でBCPを策定することも可能です。
Q3. 訓練はどの程度のものを実施すればいいですか?
年1回以上の実施が要件です。「机上訓練(テーブルトップ演習)」でも要件を満たします。実施後に記録(日時・参加者・内容)を残しておくことが求められます。
Q4. BCP策定を外部に委託できますか?
可能です。コンサルティング会社やBCP策定支援サービスを提供する事業者もあります。ただし、策定したBCPを実際に活用できるのは自ステーションのスタッフです。外注で作ったBCPを「誰も読んでいない」「訓練でも使っていない」状態では意味がありません。
外部委託を使う場合も、内容の理解・訓練への参加は必ず自ステーションで行ってください。
Q5. 感染症BCP・自然災害BCPの2本を作るのは大変です。効率的に作る方法はありますか?
「共通基盤部分」と「シナリオ固有部分」を分けて作ると効率的です。BCP基本情報(推進体制・連絡先・優先業務)は共通で使えます。「災害・感染症でそれぞれ何が変わるか」の差分だけを別文書にする形にすれば、ほぼ同じ情報を2度書く手間を省けます。
Q6. 利用者に「うちはBCPを策定しています」と伝えるメリットはありますか?
利用者・家族への信頼性向上につながります。「万が一の時もこのステーションなら大丈夫」という安心感は、契約継続・新規契約にも影響します。特に医療依存度の高い利用者の家族は、緊急時の対応体制を重視しています。BCP策定を「差別化要素」として積極的に情報発信するのも有効な経営戦略です。
Q7. 運営指導でBCPについて何を確認されますか?
主に以下の点が確認されます。
逆に言えば、「文書がある+周知記録+研修記録+訓練記録」が揃っていれば、基本的な要件は満たせます。
Q8. ICTツールとBCPはどう連動させればいいですか?
ICTツール(電子カルテ・スケジュール管理・連絡ツール等)はBCPの実行ツールとして活用できます。たとえば、LINEグループを安否確認の連絡手段に設定する、クラウド電子カルテの利用者情報を緊急時のバックアップとして活用するなどです。ただし、ICTツール自体が障害を起こした場合の代替手段(紙バックアップ等)も必ず用意してください。
BCPは自ステーション単体で完結させる必要はありません。むしろ、地域の関係機関と連携することで実効性が大幅に高まります。
感染症流行やスタッフの大量欠勤が発生したとき、1つのステーション単独では対応しきれないケースが出てきます。近隣の訪問看護ステーションとあらかじめ「相互応援協定」を結んでおくことで、緊急時の人材融通が可能になります。
協定に盛り込む内容
協定書は口約束ではなく、必ず文書化してください。双方の管理者の署名・捺印のある書面を作成し、それぞれが保管します。
相互応援協定の探し方
災害・感染症拡大時には、行政(保健所・市区町村)との連絡体制が重要になります。
平時から整備しておく連携事項
市区町村によっては、「在宅医療・介護連携推進事業」の枠組みの中でBCP策定支援や研修機会を提供しているところもあります。行政の担当者に問い合わせてみてください。
訪問看護と主治医の連携は日常業務でも大切ですが、BCP上もこの連携を整備しておく必要があります。
BCPの観点での主治医連携事項
介護保険利用者については、ケアマネジャーもBCPの実行に関わる重要なパートナーです。
ケアマネへ伝えておくべきこと
BCP策定に活用できる公式リソースをまとめます。
①「ひな形(例示入り)を活用した BCP(業務継続計画)の作り方を解説」 URL: https://www.mhlw.go.jp/content/001263040.pdf
感染症・自然災害それぞれのBCP雛形(記載例付き)が含まれています。「何をどう書けばいいか」の具体的な参考になります。
②「在宅医療・介護の連携における業務継続計画(BCP)策定のためのガイドライン」 在宅医療・訪問看護の特性に合わせた記載例が充実しています。
一般社団法人全国訪問看護事業協会(全国訪看)では、訪問看護ステーション向けのBCP雛形を3種類公開しています。
URL: https://www.zenhokan.or.jp/bcp/
これらのひな形は無料でダウンロードでき、自ステーションの情報を記入するだけで一定水準のBCPが完成します。「何もないところから作る」よりも、このひな形を使って必要箇所を自ステーション向けにカスタマイズする方が効率的です。
多くの都道府県・市区町村では、介護事業所向けのBCP策定支援を行っています。
主な支援内容
まずは事業所所在地の市区町村介護保険担当窓口に問い合わせてみてください。
BCP策定・運用にICTツールを活用することで、効率化と実効性向上が期待できます。
安否確認ツール
「安否確認サービス」と呼ばれるクラウドサービスを導入すれば、緊急時に全職員へ一斉通知を送り、返信を自動集計できます。無料〜月額数千円程度のものもあります。
クラウドストレージ
Google Drive・Dropbox・OneDriveなどのクラウドストレージを活用して、BCP文書・利用者情報バックアップ・訓練記録をクラウド上に保存しておきます。複数人がどこからでもアクセスでき、停電時もスマートフォンからアクセス可能です。
ビジネスチャット(LINE・Slack等)
緊急時の連絡手段として、職員全員が参加するLINEグループやSlackチャンネルを平時から整備しておくことを強く推奨します。音声通話より通信負荷が低く、大規模災害時も比較的つながりやすいという特性があります。
訪問看護ステーションにICTツールを導入する際のポイントや、ICT加算の取得方法については、「訪問看護のLINE業務活用とICT加算の取り方【2026年版】」の記事で詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
厚生労働省や全国訪問看護事業協会が公開している事例報告や、実際の訪問看護ステーションの経験談から、緊急時に「機能したBCP」の共通点が見えてきます。
ポイント①:シンプルで使いやすい
「辞書みたいに分厚い計画書」は緊急時に誰も使いません。冒頭に「まずこの3つをやれ」というA4一枚のアクションカードを置き、詳細は後続ページに記載する構造が実用的です。
特に「発動後最初の1時間にやること」のチェックリストは、パニック状態でも順番通りに行動できるシンプルな形にしてください。
ポイント②:全職員が「自分ごと」として理解している
BCPが機能した事業所では、「管理者だけが知っている計画」ではなく「全スタッフが内容を理解している計画」でした。
定期的な研修・訓練を通じて、各自が「自分はこの状況でこう動く」と言える状態を作ることがBCPの核心です。
ポイント③:利用者情報が緊急時もアクセスできる
電子カルテが停止しても、優先度レベルA・Bの利用者の情報(住所・緊急連絡先・医療機器情報)をすぐ参照できる形にしておいた事業所は、対応が早かったと報告されています。スマートフォン経由でアクセスできるクラウドストレージへの保存が有効です。
ポイント④:主治医・ケアマネとの連絡がスムーズだった
「あの利用者さんは大丈夫?」という確認が主治医・ケアマネとスムーズにできた事業所は、利用者全体の状況把握が早く、対応優先順位のつけ直しが迅速でした。平時から顔の見える関係を築いておくことが土台になります。
失敗パターン①:「作ることが目的」になっていた
運営指導に備えるために形式的に作成した計画は、当然ながら緊急時に機能しません。「感染症が流行した」「大雨警報が出た」という具体的なシナリオを想定して作られていない計画は、実際の緊急時に「あの計画書はどこ?」「何をすればいい?」という状態になります。
失敗パターン②:連絡先が古い
職員の携帯番号・住所が変わっても更新されていない。利用者の緊急連絡先が2年前のまま。主治医が変わったのに更新されていない——こういった「情報の鮮度切れ」が緊急時の初動を遅らせます。
失敗パターン③:管理者しか知らない
「管理者が不在のときに緊急事態が発生した」状況で、BCPの存在も発動権限も管理者しか知らなければ、誰も動けません。BCPの発動基準・権限委譲ルールを明確にし、管理者不在時でも発動できる体制が必要です。
失敗パターン④:医療機器への対応が計画に入っていない
「人工呼吸器を使っている利用者がいることは知っているが、BCPには具体的な手順が書かれていなかった」という事例が報告されています。医療依存度の高い利用者こそ、BCPで最も手厚く対策しておくべき対象です。
「必要性はわかっているが、いつも後回しになってしまう」——そんな管理者向けに、30日間で基本的なBCPを完成させるロードマップを提示します。
Day 1〜2:全国訪問看護事業協会のひな形をダウンロード
Day 3〜4:推進体制の決定
Day 5〜7:現状把握
Day 8〜10:ハザードマップの確認
Day 11〜14:業務影響分析(BIA)
Day 15〜17:自然災害BCPの作成
Day 18〜21:感染症BCPの作成
Day 22〜24:全職員への周知
Day 25〜28:備蓄物資のチェックと補充
Day 29〜30:訓練計画の策定と初回訓練
30日後には、義務化要件を一通り満たした基本的なBCPが完成します。その後は年間スケジュールに従って改善を続けてください。
訪問看護ステーションのBCP策定は、2024年4月に完全義務化され、2025年4月以降は未策定の場合に介護報酬の1%減算が適用されます。罰則はないとはいえ、遡及適用のリスク・民事上の賠償リスクを考えると、「様子を見る」という選択肢はありません。
本記事で解説した内容を振り返ります。
BCPのポイントまとめ
2種類の策定が必要:感染症BCP・自然災害BCP(どちらか1本では不十分)
6ステップで進める:①基本方針・体制整備 → ②リスク洗い出し → ③現状把握 → ④業務影響分析 → ⑤文書化 → ⑥訓練・見直し
利用者の優先順位を事前に決める:医療依存度・生活状況・連絡可否・地理的距離の4軸で評価し、緊急時の訪問優先順位を明確化する
3パターンの対応計画を持つ:自然災害・感染症・システム障害それぞれのシナリオで初動対応を文書化する
訓練・記録が義務:年1回以上の研修と訓練(シミュレーション)の実施・記録が求められる
「完璧でなくていい、まず作る」:BCP策定は継続的な改善が前提。最初から完璧を目指さず、80点のものを作って訓練・見直しで磨いていく
地域連携で実効性を高める:他ステーションとの相互応援協定・主治医・ケアマネ・行政との連携体制を整備することで、自ステーション単独では対応しきれない緊急事態にも備えられる
情報の鮮度管理が命取り:職員の連絡先・利用者の緊急連絡先・医療機器情報は最低4半期ごとに更新する。古い情報は「ないよりマシ」だが、誤った対応を招くリスクもある
BCP義務化の本来の目的は、紙の計画書を作ることではありません。「緊急事態が発生したとき、職員が迷わず動き、利用者の安全が守られる体制を作ること」です。
訓練を重ねるごとに計画の弱点が見えてきます。「この連絡経路は実際に使いにくい」「この判断基準では現場が迷う」という発見を計画に反映させてください。BCPは「使うたびに強くなる」文書です。
在宅で療養する利用者は、緊急時に「助けを求める先」が限られています。訪問看護ステーションが機能し続けることが、その方々にとって命綱です。本記事に掲載したテンプレートと30日ロードマップを活用し、「いざとなれば動ける」BCPを策定してください。
「まだ作れていない」なら、今日がスタートの日です。全国訪問看護事業協会のひな形をダウンロードし、まず自ステーションの基本情報を埋めることから始めましょう。
BCPの実効性を高めるには、日常から使い慣れたツールで記録管理を行うことが土台となります。看護レポは初期費用¥0でお試しいただけます。 → 看護レポを無料で試してみる
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