訪問看護 医療保険レセプトの書き方と点検チェックリスト
訪問看護の医療保険レセプト(訪問看護療養費明細書)の正しい記載方法を、記載例と点検チェックリストで解説します。よくある記載ミスTOP10とその防止策、2026年改定対応、国保連フォーマットへの転記ミス削減策まで網羅した管理者・事務担当者向けガイドです。
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訪問看護の医療保険レセプト(訪問看護療養費明細書)の正しい記載方法を、記載例と点検チェックリストで解説します。よくある記載ミスTOP10とその防止策、2026年改定対応、国保連フォーマットへの転記ミス削減策まで網羅した管理者・事務担当者向けガイドです。
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令和6年度(2024年度)診療報酬改定で新たに設けられた「訪問看護ベースアップ評価料」。IとIIの違い・どちらを選ぶべきかで悩んでいる管理者は多いです。
この記事では、制度背景からIとIIの具体的な違い・届出要件・計算方法・様式11の記入ポイントまで、一気通貫で整理しています。判断フローチャートと月次収入ベースの試算シミュレーションも掲載しています。届出前の検討材料としてそのままご活用ください。
訪問看護ステーションの運営において、人材確保は最重要課題のひとつです。2023年の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、訪問看護ステーションの給与水準は病院勤務と比べて低い傾向にあり、この賃金格差が採用難に直結している実態があります。
こうした状況を踏まえ、政府は「新しい資本主義実現会議推進計画」(2023年6月)の中で、看護・介護・保育分野の賃上げを明確な政策目標として掲げました。2024年度診療報酬改定はその具体的実施の場として位置づけられ、訪問看護ステーション向けに新たな賃金改善財源として「ベースアップ評価料」が創設されました。
訪問看護分野では、これまで介護保険の「処遇改善加算」が職員の待遇改善手段として機能してきました。しかし処遇改善加算は介護保険の利用者への訪問にしか紐付かず、医療保険利用者が多いステーションでは財源が十分に確保できないという構造的問題がありました。
ベースアップ評価料は医療保険制度の中に賃上げ財源を作るという点で、処遇改善加算とは根本的に異なります。医療保険利用者の多いステーションほど恩恵が大きく、両者を組み合わせることで、ステーション全体の職員処遇を底上げできる設計になっています。
令和6年度改定の改定率は診療報酬本体で+0.88%でした。このうち看護職員等の処遇改善に0.61%が充てられており、改定全体の7割近くが賃上げ目的です。ベースアップ評価料はその中核を担う項目であり、届出をしないことは、改定財源を受け取り損ねることを意味します。
ベースアップ評価料(I)は、対象職員の基本給または毎月定期的に支払われる手当の引き上げを条件に算定できる仕組みです。医療保険の訪問看護管理療養費を算定している利用者1人につき月1回・780円が追加算定できます。
「訪問看護管理療養費を算定している利用者」とは、月の最初の訪問があった日(初日)に管理療養費を算定した利用者を指します。ひと月に新規で医療保険の訪問看護を開始した利用者、または前月から継続している利用者それぞれに1回算定できます。
ベースアップ評価料の「対象職員」は、保健師・助産師・看護師・准看護師・理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)の7職種です。
ただし、専ら事務作業のみを行う職員は対象外です。訪問業務に関わる事務(レセプト請求など)を担当しつつ看護補助も行うような職員の扱いについては、実態に即した判断が必要になります。判断に迷う場合は所管の地方厚生(支)局に確認します。
令和6年度(2024年度)の要件は、対象職員の基本給または毎月定期的に支払われる手当を2分5厘(2.5%)以上引き上げることです。
ここで重要なのは「定期昇給による引き上げは除く」という点です。毎年自動的に行われる定期昇給分はカウントされません。ベースアップとして明示的に追加した賃金改善分のみが算定対象です。
令和7年度(2025年度)の要件については厚労省告示を確認してください。
ベースアップ評価料(I)を届け出るためには、賃金改善計画書(別紙様式11別添1)を毎年4月に作成し、毎年6月30日までに地方厚生(支)局に提出する必要があります。
初回届出時は、届出と同時に計画書を提出します。計画書には以下の内容を記載します。
また、賃金改善の実績を記載した「賃金改善実績報告書(別紙様式11別添2)」を毎年8月31日までに提出する義務もある。計画通りに賃金改善が実施されたかどうかを報告するものです。
ベースアップ評価料(II)は、(I)の算定額だけでは必要な賃金改善財源が不足する場合に、上乗せとして追加算定できる加算です。(I)を届け出ていることが前提条件であり、(II)単独では届出できません。
(II)の金額は固定ではなく、**スコア計算式に基づいて18段階(10円〜500円)**に区分されます。
| 区分 | スコア(A値) | 金額 |
|---|---|---|
| 1 | 0超過〜5未満 | 10円 |
| 2 | 5以上〜15未満 | 20円 |
| 3 | 15以上〜25未満 | 30円 |
| 4 | 25以上〜35未満 | 40円 |
| 5 | 35以上〜50未満 | 50円 |
| 6 | 50以上〜65未満 | 60円 |
| 7 | 65以上〜80未満 | 70円 |
| 8 | 80以上〜95未満 | 80円 |
| 9 | 95以上〜115未満 | 90円 |
| 10 | 115以上〜140未満 | 110円 |
| 11 | 140以上〜170未満 | 130円 |
| 12 | 170以上〜210未満 | 160円 |
| 13 | 210以上〜260未満 | 200円 |
| 14 | 260以上〜315未満 | 250円 |
| 15 | 315以上〜375未満 | 300円 |
| 16 | 375以上〜425未満 | 380円 |
| 17 | 425以上〜475未満 | 440円 |
| 18 | 475以上 | 500円 |
スコア(A値)が高いほど(II)の算定額は大きくなりますが、後述する計算式から明らかなように、利用者数が少ないステーションでは(II)のスコアが高くなる傾向があります。
(I)の要件に加えて、(II)を届け出るためには以下の条件をすべて満たす必要があります。
(1)常勤換算2人以上の対象職員が在籍していること
常勤換算の計算方法は、通常の施設基準と同様です。非常勤職員は週の勤務時間を常勤職員の所定労働時間で割って計算します。
(2)社会保険診療報酬収入が総収入の80%超であること
「社会保険診療報酬収入」とは、健康保険・後期高齢者医療保険・国民健康保険等による診療報酬収入を指します。介護報酬収入や自費収入は含みません。医療保険での訪問割合が高いステーションは、この要件を満たしやすいといえます。
(3)令和7年度の賃金引き上げ率が4分5厘(4.5%)以上であること
令和6年度の(I)の要件(2.5%以上)と比べ、(II)は令和7年度に向けてより高い賃上げ率が必要です。段階的な賃上げコミットメントが必要な点に注意してください。
(4)(I)の算定額だけでは賃金改善が達成できないこと(スコアA>0)
後述の計算式でA値を算出したとき、0より大きい値になる場合にのみ(II)の届出が可能です。A値が0以下であれば(I)のみで賃金改善が完結していると判定され、(II)は届出できません。
どちらを届け出るべきかは、機械的に決まります。以下のフローチャートで順を追って確認してください。
【STEP 1】
対象職員(看護師・PT・OT・STなど)が勤務していますか?
└─ NO → ベースアップ評価料は算定不可
└─ YES → 【STEP 2】へ
【STEP 2】
令和6年度に、対象職員の基本給または毎月定期手当を
定期昇給分を除いて2.5%以上引き上げましたか(または引き上げる予定ですか)?
└─ NO → 届出前にまず賃上げ計画を立案。計画後に【STEP 3】へ
└─ YES → 【STEP 3】へ
【STEP 3】
ベースアップ評価料(I)だけで、賃金改善に必要な財源が確保できますか?
(計算式Aが0以下になりますか? ← 後述の計算方法を参照)
└─ YES(A≤0)→ 【ベースアップ評価料(I)のみ届出】
└─ NO(A>0)→ 【STEP 4】へ
【STEP 4】
以下をすべて満たしていますか?
① 常勤換算2人以上の対象職員が在籍
② 社会保険診療報酬収入が総収入の80%超
③ 令和7年度の賃上げ率を4.5%以上にできる
└─ YES(全て) → 【ベースアップ評価料(I)+(II)を届出】
└─ NO(いずれか) → 【ベースアップ評価料(I)のみ届出】
※(II)の要件を満たせない場合でも(I)は必ず届け出ること
実態として、多くの中規模以上のステーションはI のみの届出になります。利用者数が相応にいれば、(I)の算定額(780円×利用者数)で必要な賃上げ財源を確保できるからです。
(II)が有効なのは「利用者数は少ないが職員数が多い」「給与水準が高く、必要な賃上げ総額が大きい」といったケースです。具体的には次章の試算シミュレーションを参照してください。
計算式はシンプルです。
(I)の月次収入見込み = 780円 × 訪問看護管理療養費(月の初日)の算定件数見込み
「訪問看護管理療養費(月の初日)」の算定件数は、直近3か月の月平均値を使います。
例)直近3か月の平均算定件数が50件のステーション
780円 × 50件 = 39,000円/月 → 年間468,000円
この金額が対象職員の賃上げに充てられる財源となります。
(II)が必要かどうかを判定するスコア(A値)の計算式は以下です。
【計算式A】
A = (対象職員の給与総額 × 医療保険利用者割合 × 1.2%) − (I)の見込み額
÷ (II)の算定回数見込み
ただし、実際には各要素の定義が細かく規定されているため、厚生労働省が提供している「ベースアップ評価料計算支援ツール(訪問看護)」のExcelファイルを使うことを強く推奨します。
このツールに以下の数値を入力するだけで、自動的にA値と該当区分が算出されます。
(1)対象職員の給与総額(直近12か月の月平均)
基本給・各種手当・賞与をすべて含めた総支給額の月平均です。法定福利費(社会保険料の事業主負担分)は含みません。正確な数値は給与台帳から集計してください。
(2)医療保険利用者割合
医療保険利用者割合 = 医療保険の訪問看護利用者数 ÷ (医療保険 + 介護保険の訪問看護利用者数)
直近3か月の月平均値を使います。同一利用者が月中に医療保険から介護保険に切り替わった場合などは、計算基準月の保険種別で判定します。
(3)(I)の算定回数見込み
前述のとおり、直近3か月の訪問看護管理療養費(月の初日算定)の月平均算定件数を使います。
(4)(II)の算定回数見込み
(II)も(I)と同様に、訪問看護管理療養費(月の初日)の算定件数と同一の数値を用います。
基本データ
計算手順
(I)の月次収入見込み:
780円 × 48件 = 37,440円/月
年間換算:
37,440円 × 12か月 = 449,280円
必要な賃上げ総額(2.5%引き上げの場合):
320万円 × 2.5% = 80,000円/月 = 960,000円/年
(I)の年収入と必要賃上げ額を比較:
449,280円(I の収入)< 960,000円(必要賃上げ額)→ 差額 510,720円
判定:(II)の検討が必要
A値の簡易計算:
(320万円 × 40% × 1.2%)− 37,440円 ÷ 48件
= (12,800円)− 780円
≒ 12,020円
※上記は簡易版。実際はExcel支援ツールで正確に算出してください。
→ このケースは(I)だけでは財源が不足するため、(II)の届出を検討する必要があります。
基本データ
計算手順
(I)の月次収入見込み:
780円 × 27件 = 21,060円/月
年間換算:
21,060円 × 12か月 = 252,720円
必要な賃上げ総額(2.5%引き上げの場合):
160万円 × 2.5% = 40,000円/月 = 480,000円/年
比較:
252,720円(I の収入)< 480,000円(必要賃上げ額)→ 差額 227,280円
→ こちらも(II)の検討が必要なケースです。ただし常勤換算2人以上の要件は満たしています(3.0人)。社会保険診療報酬収入の割合を確認した上で(II)の届出を判断すること。
基本データ
計算手順
(I)の月次収入見込み:
780円 × 95件 = 74,100円/月
年間換算:
74,100円 × 12か月 = 889,200円
必要な賃上げ総額(2.5%引き上げの場合):
650万円 × 2.5% = 162,500円/月 = 1,950,000円/年
比較:
889,200円(I の収入)< 1,950,000円(必要賃上げ額)
→ 大規模になるほど(I)だけでは賃上げ財源が不足します。(II)の追加要件(常勤換算2人以上・社保収入80%超・令和7年度4.5%引き上げ)を満たせるかどうかが鍵です。
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自ステーションの所在地を管轄する地方厚生(支)局都道府県事務所が届出先です。
主要な地方厚生局の届出窓口:
| 地域 | 窓口 |
|---|---|
| 北海道 | 北海道厚生局 |
| 東北 | 東北厚生局 |
| 関東・甲信越 | 関東信越厚生局 |
| 東海・北陸 | 東海北陸厚生局 |
| 近畿 | 近畿厚生局 |
| 中国・四国 | 中国四国厚生局 |
| 九州 | 九州厚生局 |
近畿厚生局の届出情報:ベースアップ評価料の届出について(近畿厚生局)
メール提出が原則です。各地方厚生局が設けた専用メールアドレスにExcelファイル(様式11)を添付して送付します。郵送での提出も受け付けているケースがありますが、メール提出のほうがスピーディに処理されます。
ファイル名には医療機関コード(10桁)を含めることが求められています(例:様式11_1234567890_看護ステーションXX.xlsx)。ファイル名の形式は各厚生局の指定に従ってください。
様式は厚生労働省のホームページからダウンロードします。
ダウンロードできる様式:
(II)を届け出る場合は、様式11と別添1〜2が必要です。特別事情(経営困難等)がある場合は別添3も使用します。
ベースアップ評価料の届出・報告には年間を通じたスケジュール管理が必要です。
| 時期 | 対応内容 |
|---|---|
| 新規届出時 | 様式11・別添1(賃金改善計画書)を同時提出 |
| 毎年4月 | 翌年度の賃金改善計画書(別添1)を作成 |
| 毎年6月30日まで | 前年度の賃金改善計画書(別添1)を提出 |
| 毎年8月31日まで | 前年度の賃金改善実績報告書(別添2)を提出 |
| 随時 | 計画と実績に大幅な乖離が生じた場合は特別事情届出書(別添3)を提出 |
重要: 令和6年6月1日から算定を開始するためには、令和6年6月21日までに届出が受理される必要がありました(初回に限る経過措置)。現在(令和7年度以降)は通常の届出ルールが適用されます。
別紙様式11は以下のセクションで構成されています。
(1)施設の基本情報
(2)訪問看護ベースアップ評価料(I)の届出
(3)(II)も届け出る場合の追加記載事項
(1)対象職員数は届出日時点の人数 将来の採用予定者は含めません。届出日現在で実際に勤務している職員数を記載します。
(2)賃金改善の内容は具体的に記載 「基本給を月額○○円引き上げ」「○○手当を新設・月額○○円」等、改善内容を具体的に記載します。「処遇改善を実施する」といった抽象的な記載では受理されない場合があります。
(3)計算支援ツールの出力値を確認してから記載 スコア区分は必ず厚生労働省の計算支援ツールで計算した結果を記載すること。手計算での記載ミスが返戻の原因になります。
(4)添付書類の漏れに注意 (I)のみ:様式11+別添1 (I)+(II):様式11+別添1(+別添2は翌年8月に提出)
届出が受理されると、地方厚生局から「受理通知」が届きます(メール提出の場合は返信メール)。受理通知を受け取ったら、速やかにレセプトシステムに算定開始日と算定区分を設定します。
届け出た計画書の通りに賃金改善が実施されなかった場合、ベースアップ評価料の算定が遡及して取り消される可能性があります。改善額が不足した場合は、不足分を自費で補填する義務があります。
実績報告書(別添2)を毎年8月に提出する際に、計画と実績の乖離が明らかになります。計画から大きく外れることが予測される場合は、早めに特別事情届出書(別添3)を提出して厚生局に相談します。
年度途中で対象職員に変動が生じた場合、給与総額や常勤換算数が変わります。特に(II)の区分は算定回数や給与総額の変化に応じてスコアが変わるため、年度更新時の再計算が必要です。
なお、対象職員が退職して常勤換算2人を下回るようになった場合、(II)の算定要件を失う可能性があります。その場合は速やかに変更届を提出してください。
届出が受理されても、レセプトシステムへの設定を忘れると算定されません。届出受理後は速やかにレセプトシステムを更新し、試算請求(テスト請求)で算定できているかを確認します。
前述のとおり、定期昇給によるものはベースアップとして認められません。規程上「定期昇給」として制度化されているものは除外し、別途ベースアップとして賃金規程を改訂する必要があります。
賃金規程の改訂には就業規則の変更手続き(労働者への周知・労働基準監督署への届出)が必要な場合があります。社会保険労務士に相談しながら進めることを勧める。
ベースアップ評価料による賃金改善分と、介護保険の「処遇改善加算」による改善分を同じ職員に重複して計上することはできません。どちらの財源で何をどの職員に改善するかを、計画書の段階で明確に整理しておく必要があります。
Q1. 令和6年度に届出を忘れた場合、今からでも届出できますか?
A. できます。ベースアップ評価料の届出に期限はなく、随時届出が可能です。ただし、算定開始日は届出が受理された月の翌月1日(または届出日によっては当月)以降となります。令和6年度分の遡及算定はできません。
Q2. 非常勤看護師が大半を占めていますが、算定できますか?
A. 算定できます。対象職員は常勤・非常勤を問いません。ただし常勤換算2人以上の要件((II)の場合)については、非常勤を含めた常勤換算数で判定します。
Q3. 管理者(所長)はベースアップ評価料の対象に含まれますか?
A. 含まれます。なお、法人の役員である場合の報酬部分は「役員報酬」として扱われ、対象外になります。管理者が法人の役員も兼ねている場合は、給与部分(雇用契約に基づく部分)のみが対象となります。
Q4. 介護保険メインのステーションでも届出する意味がありますか?
A. あります。ベースアップ評価料は医療保険利用者への訪問1件ごとに算定されますが、医療保険利用者が少ない場合でも(I)の算定件数×780円が得られます。介護保険メインのステーションでは得られる額は少なくなりますが、届出のコストは低いため、届出しない理由はありません。
Q5. 複数ステーションを運営していますが、ステーションごとに届出が必要だか?
A. はい、ステーションごとに個別に届出が必要です。計算支援ツールもステーション単位で使用します。
Q6. 賃金改善計画書は提出後に変更できますか?
A. 年度途中での大幅な変更は「特別事情届出書(別添3)」を提出することで対応できます。変更せずに放置すると実績報告で乖離が発覚し、算定取り消しのリスクが生じます。
訪問看護ステーションが介護保険サービスも提供している場合、介護保険の「訪問看護処遇改善加算」と、医療保険の「ベースアップ評価料」を組み合わせることが可能です。
注意点として、同一の賃上げ原資を二重計上することは認められません。以下のように財源を整理して計画書を作成してください。
| 財源 | 対象 | 主な用途 |
|---|---|---|
| ベースアップ評価料 | 医療保険利用者への訪問から得られる財源 | 対象職員全員のベースアップ |
| 訪問看護処遇改善加算 | 介護保険利用者への訪問から得られる財源 | 対象職員のさらなる処遇改善 |
両方を活用することで、職員1人あたりの賃上げ原資を最大化できます。
看護補助者(看護助手)は「対象職員」の定義に含まれていないため、ベースアップ評価料の財源を看護補助者の賃上げに使うことはできません。看護補助者の処遇改善は、別途「看護補助体制充実加算」等の仕組みを活用する必要があります。
賃金改善計画書は単なる書類手続きではありません。年間の賃上げ計画を明文化することで、スタッフへの説明責任を果たし、職員の安心感と定着率向上にも繋がります。管理者として、誰が・いつ・どれだけ賃上げされるかを具体的に示すこと、それがそのままスタッフへの説明資料になります。
計画書の冒頭では、対象職員の属性情報を記載します。以下の情報を職種・雇用形態別に整理してください。
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 職種 | 看護師、准看護師、PT、OT、ST など |
| 雇用形態 | 常勤・非常勤の別 |
| 人数 | 各職種・雇用形態ごとの人数 |
| 常勤換算数 | 非常勤は所定労働時間で換算 |
| 月額給与の平均 | 基本給+定期手当の直近12か月平均 |
賞与・残業代・通勤手当などの変動費は除外して計算することが一般的です。一方で、毎月定期的に支払われる固定手当(資格手当・住宅手当等)は含めます。
「何をどれだけ上げるか」を具体的に記載します。改善方法の選択肢は主に以下の3つです。
(a)基本給の引き上げ 最もシンプルな方法です。「全員の基本給を月額○○円引き上げる」という形で記載します。引き上げ額は職種・等級・年次によって異なる場合でも、改善総額と対象職員数が確認できれば問題ありません。
(b)手当の新設 「ベースアップ手当」「処遇改善手当」等の名称で新たな手当を設ける方法です。既存の給与体系を変えずに追加するため、就業規則の変更は必要ですが、賞与計算などへの影響が最小限に抑えられます。
(c)既存手当の増額 「資格手当を月額○○円から○○円に増額する」という形です。既存の規程を改訂する必要があります。
どの方法でも、計画書には「改善後の賃金水準」と「改善前との差額(月額・年額)」を明示してください。この差額が評価料収入から実際に支払われた証明となり、実績報告でも使います。
どの財源で賃上げを実施するかを記載します。
| 財源の種類 | 記載方法 |
|---|---|
| ベースアップ評価料(I)の見込み | 算定件数 × 780円 × 12か月 |
| ベースアップ評価料(II)の見込み | 算定件数 × 該当区分金額 × 12か月 |
| 法人の内部留保等 | 評価料収入で不足する分を法人が補填する場合に記載 |
財源の見込み額が、賃上げに必要な総額(対象職員の給与総額 × 改善率)を下回る場合、不足分の補填方法を明記しなければなりません。
賃金改善計画書の提出は毎年6月30日までですが、実際の社内手続きはそれより早く進める必要があります。
理想的なスケジュール
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2月〜3月 | 前年度の実績を確認し、翌年度の改善方針を検討 |
| 3月 | 計算支援ツールで財源試算・改善額の決定 |
| 3月〜4月 | 就業規則(賃金規程)の改訂・労働基準監督署届出 |
| 4月1日 | 改善後の賃金適用開始 |
| 4月中 | 賃金改善計画書の作成 |
| 6月末まで | 地方厚生(支)局に計画書提出 |
重要:就業規則の変更は労働者への周知が必要
賃金規程を改訂した場合、就業規則の変更として10人以上の事業所では労働基準監督署への届出が義務です(10人未満は届出不要ですが、周知義務は同様)。不利益変更にならない場合でも、変更内容をスタッフ全員に書面等で説明・周知する必要があります。
毎年8月31日までに提出が義務付けられている「賃金改善実績報告書(別紙様式11別添2)」は、前年度(4月〜翌3月)の賃金改善が計画通り実施されたかどうかを報告するものです。
実績報告書は遡及監査の対象になり得るものであり、虚偽の報告は返還命令の対象になります。正確な給与台帳データに基づいて作成することが大前提です。
(1)改善前・改善後の賃金水準
計画書で示した改善内容が実際に適用された結果、対象職員の賃金水準がどう変わったかを記載します。
| 職種・人数 | 改善前月額 | 改善後月額 | 改善額 | 改善率 |
|---|---|---|---|---|
| 看護師(常勤・6名) | ○○円 | ○○円 | ○○円 | 2.5% |
| 看護師(非常勤・2名) | ○○円 | ○○円 | ○○円 | 2.5% |
(2)ベースアップ評価料の実績額
実際に算定したベースアップ評価料(I)・(II)の年間総額を記載します。計画時の見込みと実績に差がある場合は、その理由(利用者数の変動等)も記載します。
(3)差額の取り扱い
ベースアップ評価料の実績額が、賃金改善の実績額を上回る場合(評価料収入が賃上げ額より多かった場合)、余剰分はさらなる賃金改善に充てるか、翌年度の改善計画に組み込む必要があります。
評価料収入を賃上げ以外の用途(運営費等)に転用することは認められません。
実績報告の根拠となる給与台帳・賃金規程・雇用契約書等は、少なくとも5年間保存する必要があります。指定取り消し等の行政処分があった場合にも、遡及して確認が求められることがあります。
ベースアップ評価料を算定し始めたら、賃金規程の整備が同時に必要になります。就業規則変更の手続きをせずに賃上げを行った場合、後の実地指導で法的根拠の不備を指摘されます。
STEP 1:労働者代表の意見聴取
就業規則を変更する場合、事業場の過半数を代表する者(または労働組合)に意見を聴取し、意見書を添付する必要があります(労働基準法第90条)。意見書の内容は「異議なし」でも「異議あり」でも構いませんが、聴取の手続き自体が必要です。
STEP 2:就業規則変更届の提出(常時10人以上の場合)
常時10人以上の労働者を使用する事業所は、就業規則の変更届を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります(労働基準法第89条)。提出先は事業所の所在地を管轄する労働基準監督署です。
STEP 3:労働者への周知
変更後の就業規則を全労働者に周知します。周知方法は(a)常時各作業場の見やすい場所への掲示・備え付け、(b)書面による交付、(c)社内システムへの掲載等が認められています。
ベースアップ手当や基本給の引き上げを行う場合、賃金規程(就業規則の一部または別規程)に以下を明記します。
「ベースアップ評価料の算定が継続する限り支給する」という条件付きの規定は、行政指導により修正を求められる場合があります。賃金規程は将来にわたって支払い義務を負うものとして設計することが原則です。
既存スタッフの賃金が変わる場合、雇用契約書または労働条件通知書を更新してください。特に非常勤・パートスタッフは個別の雇用契約書に賃金が明記されているケースが多く、書面を更新しないまま賃金を変更すると、後から「そんな話は聞いていない」というトラブルにつながります。
指摘内容: 計画書に「看護師全員」と記載されているが、非常勤を含む全員なのか、常勤のみなのかが不明。
対応策: 雇用形態・職種ごとに対象者を明確に区分して記載します。「常勤看護師○名・非常勤看護師○名(週○時間以上)」のように、境界線が明確になるよう記述してください。
指摘内容: 2.5%の引き上げと記載されているが、何を基準に2.5%を計算したか不明。
対応策: 改善前の基本給・手当の水準(月額)と、引き上げ額(月額)を対比した表を添付します。「基本給○○円 → ○○円(差額○○円・率2.5%)」という形式が最もわかりやすいです。
指摘内容: 賃金が上昇しているが、どこまでが定期昇給でどこからがベースアップなのか判断できません。
対応策: 「前年度同月の定期昇給:月額○○円(昇給表の△等級→△等級)」「ベースアップ分:月額○○円(本年度新設のベースアップ手当)」のように、定期昇給とベースアップを明確に分離して記載します。賃金規程に別立ての手当として設ければ分離が容易です。
指摘内容: 同じ職員に対して、ベースアップ評価料と訪問看護処遇改善加算の両方を財源として賃上げを計画しているが、どちらがどの改善に対応するか不明。
対応策: 財源ごとに賃上げの対応を明記します。たとえば「訪問看護ベースアップ評価料:基本給引き上げ分(月額○○円)」「処遇改善加算:特定処遇改善手当(月額○○円)」のように、財源と改善内容を1対1で紐付けます。
パターン①:月途中に医療保険の利用を開始した利用者
月途中に医療保険での訪問看護を開始した利用者は、その月の訪問初日に訪問看護管理療養費を算定します。月初から継続している利用者に加え、途中から開始した利用者も確実に拾う必要があります。
パターン②:月をまたいで入院・退院した利用者
月途中で入院し、同月内に退院して訪問が再開した利用者については、退院後の初日訪問に管理療養費が発生します。入退院の情報共有が不十分だと、請求時に未算定が残ります。
パターン③:複数の担当者が関与している利用者
複数のスタッフが担当している利用者の月初訪問については、「誰がいつ初回訪問したか」の確認が請求担当者にとって難しくなります。
(1)月初管理療養費算定リストの作成
各月の請求締め前に、「今月管理療養費を算定すべき利用者一覧」を作成します。前月からの継続利用者+当月新規開始利用者のリストと、実際に訪問記録があるかどうかを照合する工程です。
(2)訪問記録の当日集約
請求担当者がリアルタイムで訪問記録を確認できる体制を作ることが、最も根本的な解決策です。紙の訪問記録では当日集約が困難であり、入力の遅延が算定漏れに直結します。
(3)月末の算定チェック
請求書作成前の最終確認として、ベースアップ評価料(I)の算定件数が、管理療養費の算定件数と一致しているかを確認します。両者は同数になるべきものです(管理療養費を算定した利用者全員に(I)も算定するため)。
訪問看護レポ(kango-repo.com)では、スタッフがLINEで送った訪問記録から請求用CSVを自動生成します。訪問記録が当日中に集約されるため、請求担当者は常に最新のデータを確認でき、月初訪問の算定漏れチェックが容易になります。
アプリのインストールが不要で、スタッフ教育のコストを最小限にしつつ記録の即時性を高められる点が、小〜中規模ステーションに特に支持されています。
フリープランは完全無料、チームプランは980円/人/月から利用できます。届出後の算定管理体制を整えるタイミングでの導入を推奨します。 フリープランで算定漏れゼロを試す →
令和6年度改定で新設されたベースアップ評価料は、2年間(令和6〜7年度)を目安とした時限的な措置として設計されています。令和8年度以降の扱いについては、令和8年度診療報酬改定(2026年度)の議論を経て決定される見通しです。
制度が恒久化されるか、他の加算に統合されるか、廃止されるかは現時点では不確定です。もっとも、看護職員の賃上げという政策目標自体は引き続き重視されており、何らかの形で賃上げ財源が継続される可能性が高いと見られています。
令和7年度については、引き上げ率の要件が(I)は令和6年度(2.5%)と同水準が維持される見通しですが、最新の厚生労働省通知を必ず確認してください。
確認すべき情報源:
ベースアップ評価料の財源を単に賃金に上乗せするだけでなく、「なぜ賃上げできたのか」をスタッフに丁寧に説明することが、制度活用の効果を高めます。
「制度改定で財源が得られたため、職員全員にベースアップを実施する」という事実を透明に伝えることは、職場への信頼感醸成と採用競争力向上に繋がります。求人票への「令和6年度診療報酬改定により賃上げ実施」という記載は、求職者への訴求力があります。
また、ベースアップ評価料による改善に加えて、職場環境改善(記録の負担軽減・勤務シフトの柔軟化等)も並行して実施することで、定着率向上の相乗効果が期待できます。
ベースアップ評価料は「評価料収入をそのまま賃金改善に充てる」設計のため、経営的には収支中立に近い性格を持ちます。ただし、計画した賃上げ額が評価料収入を上回る場合、その差額は法人が負担することになります。
中長期的な経営安定のために、ベースアップ評価料の活用と同時に利用者数の維持・増加、算定漏れの防止、加算の適切な取得を並行して進める必要があります。
訪問看護師の転職理由として「給与水準の低さ」は常に上位に挙がります。厚生労働省の「令和4年 訪問看護アンケート調査」によると、訪問看護ステーションの管理者が感じる課題の第1位は「人材の確保・定着」であり、賃金改善は最も直接的な対策のひとつです。
ベースアップ評価料による賃上げを求人に明記し、実際の改善額を具体的に示すことで、採用応募数の増加が期待できます。「前年度比○○円/月の賃上げを実施」という具体的な数字が、求職者の意思決定に影響します。
賃金改善は単なるコストではなく、人材確保コスト(採用費・研修費・離職に伴う生産性低下)の削減につながる経営投資です。
これらを考えると、ベースアップ評価料を活用して年間45〜90万円の賃上げ財源を確保し、1名の定着率を高めることは、経営的に合理的な判断です。
ベースアップ評価料を届け出た後は、算定漏れゼロが運営上の大前提です。月に1回・利用者ごとに確実に算定するためには、訪問記録と請求業務の連携精度が問われます。
特に以下のような課題が生じやすいです。
訪問看護の記録・請求管理を改善する方法は大きく2つに分けられます。
(1)訪問看護専用の電子カルテ・システムの導入
本格的な電子カルテシステムは機能が豊富ですが、初期費用・月額費用ともに高額になりやすく、スタッフ教育にも時間がかかります。大規模ステーションや複数拠点を持つ法人には適していますが、5〜10名規模のステーションには過剰投資になるケースもあります。
(2)シンプルなLINE連携ツールの活用
看護レポは、LINEで訪問記録を送るだけで請求用CSVが自動で生成される訪問看護向けのサービスです。スタッフはアプリを追加する必要がなく、普段使いのLINEから記録を送るだけで完結するため、記録入力の習慣化と請求データの整合性を同時に実現できます。
ベースアップ評価料の算定漏れは直接的な収入ロスに直結します。記録管理を整備するタイミングでの導入を検討してください。フリープランは0円、チームプランは980円/人/月から始められます。 フリープランで算定漏れゼロを試す →
令和6年度介護報酬改定では、介護保険の訪問看護に対して「訪問看護処遇改善加算」が新設されました。これはこれまで訪問看護に適用されていなかった介護保険側の処遇改善財源を、訪問看護ステーションにも拡大したものです。
医療保険のベースアップ評価料と介護保険の処遇改善加算が同年度に並立したことで、「どちらをどう使えばよいか」という疑問が管理者から多く寄せられています。
| 比較軸 | ベースアップ評価料(医療保険) | 訪問看護処遇改善加算(介護保険) |
|---|---|---|
| 算定の根拠 | 診療報酬(医療保険) | 介護報酬(介護保険) |
| 算定対象 | 医療保険利用者への訪問 | 介護保険利用者への訪問 |
| 財源の使途 | 対象職員のベースアップ(2.5%以上) | 対象職員の処遇改善(区分に応じた要件) |
| 届出先 | 地方厚生(支)局 | 都道府県(指定権者) |
| 計画書提出 | 毎年6月30日まで | 毎年4月以降(区分により異なる) |
| 実績報告 | 毎年8月31日まで | 毎年7月末まで |
| 対象職員 | 看護師・PT・OT・STなど(専ら事務除く) | 訪問看護に従事する全職員(看護補助を含む場合あり) |
2つの制度を同時に活用できますが、同一の賃金改善を両方の財源で二重計上することは不可です。
実務的な整理の方法として、以下のような分担が考えられます。
分担例①:財源ごとに改善手当を分離する
分担例②:対象職員の属性で分ける ※ただし大多数の訪問看護職員は両方の利用者を担当するため、純粋な分離が難しい場合が多いです。
実際の整理方法については、所管の都道府県・地方厚生局や、顧問の社会保険労務士に確認します。
ベースアップ評価料は訪問看護ステーション専用ではなく、病院・診療所・歯科医院にも設けられています。ただし、訪問看護ステーション向けの評価料は、他の医療機関のものとはいくつかの点で異なります。
| 機関 | 算定単位 |
|---|---|
| 訪問看護ステーション | 訪問看護管理療養費(月の初日)を算定している利用者1人・月1回 |
| 病院(入院) | 入院患者1人・1日あたり |
| 診療所(外来) | 受診患者1人・1日あたり |
訪問看護は「月1回・利用者ごと」という単位であり、入院・外来の「1日・患者ごと」とは算定頻度の前提が異なります。
入院・外来向けのベースアップ評価料(I)は、訪問看護の780円より少額(外来は10円程度〜)であることが多く、入院患者数×日数で算定されるため、大病院ほど総額が大きくなります。訪問看護は利用者数(管理療養費算定件数)が算定基盤であるため、利用者規模が直接収入に影響します。
病院・診療所の場合、放射線技師・臨床検査技師・薬剤師等の幅広い職種が対象に含まれます。訪問看護ステーションは、実際に訪問業務に従事する職員(看護師・PT・OT・ST等)に限定されます。
届出をしないことで発生する機会損失は具体的に計算できます。
例)利用者45名・医療保険30名のステーション
(I)の月次収入見込み = 780円 × 30件 = 23,400円/月
年間換算 = 23,400円 × 12か月 = 280,800円
3年間届出をしなかった場合の機会損失:
280,800円 × 3年 = 842,400円
このステーションは3年間で80万円超の財源を受け取らずにいることになります。
実際には、届出率が100%に達していません。主な理由として以下が挙げられます。
(1)情報不足・認知不足 改定情報のキャッチアップができていない、または「自分のステーションには関係ない」と誤解しているケース。
(2)届出の手続きへの抵抗感 「Excelの計算が難しそう」「様式の書き方がわからない」という心理的ハードル。計算支援ツールがあることを知らないケースも多いです。
(3)賃上げを実施できない経営状況 評価料収入だけでは必要な賃上げができず、差額の法人負担が難しい場合。この場合でも、できる範囲での賃上げを計画してI のみ届け出ることが、長期的な採用競争力のために有効です。
(4)処遇改善加算との整理の困難さ 介護保険の処遇改善加算との財源整理が複雑に思えて後回しにしています。
いずれも、計算支援ツールと厚生局への事前相談を活用することで解消できる課題です。
届出前に不明な点がある場合、地方厚生(支)局の担当窓口に事前相談することが可能です。特に以下のような事項は事前確認を推奨します。
厚生局の窓口は「届出の受理・審査」を行う行政機関ですが、適切な届出を促進するための支援として、相談対応を行っています。「書類を提出したら返戻された」という事態を防ぐためにも、不明点は事前に確認することが最善です。
事前相談を効率的に行うために、以下の情報を整理してから連絡します。
ベースアップ評価料に関する通知・Q&Aは、厚生労働省のホームページで随時更新されています。年度更新時(毎年3〜6月)は特に情報更新が集中するため、定期的な確認が必要です。
確認頻度の目安
| 時期 | 確認内容 |
|---|---|
| 毎年2〜3月 | 翌年度の改定概要・賃上げ要件の変更有無 |
| 毎年4月 | 確定した告示・通知の確認 |
| 毎年6月 | 計画書提出前の最終要件確認 |
| 随時 | Q&Aの追加・修正の確認 |
都道府県の訪問看護ステーション協会が開催する研修会や、日本訪問看護財団が提供する情報提供メーリングリストへの登録も、改定情報を漏れなくキャッチするための有効な手段です。
ベースアップ評価料は、賃金改善の実施を要件とする給付です。実際には賃金を改善していないのに評価料を算定した場合は不正請求となります。賃金改善計画書や実績報告書への虚偽記載があった場合も同様で、診療報酬の返還命令(40%加算の返還ペナルティあり)および指定取り消し処分の対象となります。
不正受給のリスクは意図的な場合だけでなく、「定期昇給をベースアップとして計上した」「退職者への改善が実施できなかったが報告で黙殺した」といった管理ミスによって発生することもあります。
シナリオ①:当初計画より利用者数が減少し、評価料収入が不足した
計画時に50件の算定を見込んでいましたが、利用者の退院・死亡等で実際は35件に留まりました。収入見込みが下がったため、計画した賃金改善が財源不足で実施できませんでした。
対応: 不足分を法人が補填して計画通りの賃上げを実施するか、特別事情届出書を提出して変更計画を届け出ることが必要です。賃上げを実施せずに評価料だけを算定し続けることは不正になります。
シナリオ②:対象職員が年度途中で全員退職し、新しい職員を採用した
旧職員への賃金改善は4月〜8月まで実施されたが、9月以降に全員入れ替えになりました。新職員への改善は実施されていますが、旧職員分の実績報告がどうなるか不明です。
対応: 実績報告書では、年度を通じた改善総額を記載します。途中で職員が入れ替わった場合も、年間を通じた賃金改善の実績額を正確に計算・報告します。不明点は早期に厚生局へ相談します。
地方厚生局は定期的に訪問看護ステーションへの実地指導(監査)を行います。ベースアップ評価料の算定内容については、以下の書類の確認が行われます。
これらの書類が整備されていれば、指導での問題は生じません。逆に、「算定はしているが計画書を作っていない」「実績報告を提出していない」という状況は、指導の対象になります。
以下は、5名の看護師を抱える中規模訪問看護ステーション(医療保険利用者30名)の賃金改善計画書作成例です。実際の計画書は厚生労働省の様式11別添1に沿って作成してください。
ステーション名:○○訪問看護ステーション
医療機関コード:12345678901
届出日:令和6年5月20日
【対象職員】
・看護師(常勤):3名
月額基本給平均:280,000円
月額定期手当平均:20,000円(資格手当・交通費を除く)
月額給与合計平均:300,000円
・看護師(非常勤・週30時間):2名
月額基本給平均:175,000円
月額定期手当平均:10,000円
月額給与合計平均:185,000円
対象職員の月額給与総額:
常勤3名 × 300,000円 = 900,000円
非常勤2名 × 185,000円 = 370,000円
合計:1,270,000円/月
【医療保険利用者数】:30名(全利用者40名中)
【(I)算定回数見込み】:月平均28件
必要な賃上げ総額(2.5%引き上げ):
1,270,000円 × 2.5% = 31,750円/月 = 381,000円/年
(I)の収入見込み:
780円 × 28件 = 21,840円/月 = 262,080円/年
不足額:
381,000円 − 262,080円 = 118,920円/年(法人負担)
【改善内容】
・「ベースアップ手当」を新設
・常勤看護師3名:月額7,000円(年額84,000円/名)
・非常勤看護師2名:月額4,000円(年額48,000円/名)
【改善総額】
(7,000円 × 3名)+(4,000円 × 2名)= 29,000円/月
※必要な2.5%引き上げ額31,750円に対し、手当設定は29,000円。
差額2,750円/月は翌年度の昇給で補填する旨を特記する。
【財源】
・ベースアップ評価料(I)収入見込み:21,840円/月
・法人負担:7,160円/月(29,000円−21,840円)
この例から分かるように、計画書は「財源の全てをベースアップ評価料が賄う」必要はなく、法人が差額を負担する形でも問題ありません。重要なのは「計画した賃上げが実際に実施されること」です。
ベースアップ評価料は、医療保険の診療報酬明細書(レセプト)に記載して請求します。具体的には以下のように反映します。
算定コード
レセプトシステムによって異なりますが、「訪問看護ベースアップ評価料(I)」「訪問看護ベースアップ評価料(II)区分○」として個別に算定コードが設定されています。使用しているレセプトシステムのメーカーに、対応する算定コードと設定方法を確認してください。
算定日
ベースアップ評価料は訪問看護管理療養費(月の初日)を算定した日と同一日に算定します。管理療養費の算定日と評価料の算定日がずれていると審査で疑義が生じます。
利用者への説明
医療保険の場合、利用者は一部負担金(1〜3割)を支払います。ベースアップ評価料の算定により、利用者の負担が増加します。
1割負担の利用者の場合:
(I):780円 × 1割 = 78円/月
(II)区分3(30円)の場合:30円 × 1割 = 3円/月
金額は小さいですが、利用者への事前説明は信頼関係の維持に重要です。「国の制度で職員の賃上げのために新設された加算です」という形で説明することが一般的です。
返戻ケース①:施設基準の届出が受理される前に算定した
届出が受理された日以降でないと算定できません。受理通知が届く前の月に先行して算定した場合は返戻対象です。
返戻ケース②:管理療養費を算定していない利用者に評価料を算定した
訪問看護管理療養費(月の初日)を算定していない利用者にベースアップ評価料を算定することはできません。管理療養費と評価料はセットで算定するものです。
返戻ケース③:(II)の区分が実際の計算結果と異なる
届出時に記載した(II)の区分と、実際に算定した区分が一致していない場合、返戻の対象になります。年度更新時に計算支援ツールで再計算し、区分の変更が必要な場合は変更届を提出してください。
同一の医療法人・社会福祉法人・株式会社等が複数の訪問看護ステーションを運営している場合、ステーションごとに個別の届出が必要です。法人として一括で届け出ることはできません。
各ステーションは独自の医療機関コードを持ち、独自の施設基準届出を管理します。したがって、あるステーションではベースアップ評価料(I+II)を届け出ており、別のステーションでは(I)のみという状況も生じます。
法人全体で賃金改善を管理する場合の注意点:
訪問看護ステーションのサテライト拠点は、本体ステーションと一体として施設基準届出を行う場合が多いですが、独立した届出を行うかどうかはサテライトの運営形態によります。所管の地方厚生局に事前確認します。
ベースアップ評価料(II)の区分は、年度ごとに再計算して更新します。以下のような変化があった場合は、スコアが変わり区分変更が必要になることがあります。
| 変化の内容 | スコアへの影響 |
|---|---|
| 利用者数が増加した | 算定回数見込みが増加 → スコアが下がる可能性 |
| 利用者数が減少した | 算定回数見込みが減少 → スコアが上がる可能性 |
| 職員数が増加した | 給与総額が増加 → スコアが上がる可能性 |
| 医療保険利用者割合が変化した | 計算式に影響 |
区分が変わる場合は、変更後の区分を記載した変更届を地方厚生局に提出します。変更届を提出しないまま旧区分で算定し続けると、正しい区分との差額について返戻・追加算定の対応が必要になります。
年度更新のタイミング(毎年の目安):
区分変更の手続きは、新規届出と同様に管轄の地方厚生(支)局の専用メールアドレスへExcelファイルを送付して行います。区分が正しく反映されているかどうかは、レセプトシステムの算定設定を確認してください。
最後に、管理者が実際に行うべきアクションをチェックリスト形式でまとめます。届出前の準備から運用開始後の月次管理まで、抜け漏れなく確認してください。各チェック項目は算定・指導対応の両面に直結します。特に初回届出と年次更新のタイミングを見落とさないようにしてください。
算定停止を避けるため、書類の不備や期限切れには十分注意しながら計画的に進めましょう。
□ 計算支援ツール(厚生労働省Excel)をダウンロードした
□ 対象職員のリストを職種・雇用形態別に整理した
□ 直近12か月の給与総額(月平均)を集計した
□ 直近3か月の訪問看護管理療養費算定件数(月平均)を確認した
□ 医療保険・介護保険別の利用者数割合を計算した
□ 計算支援ツールにデータを入力し、A値とスコア区分を確認した
□ I のみかI+IIかの判断をした
□ (II)を届け出る場合:4要件を全て満たすことを確認した
□ 賃金改善の内容(何を・どれだけ・いつから引き上げるか)を決定した
□ 賃金規程の改訂が必要な場合、社労士に相談した
□ 就業規則変更の手続き(意見聴取・届出・周知)を完了した
□ 様式11・別添1を作成した
□ 管轄の地方厚生局の専用メールアドレスを確認した
□ ファイル名に医療機関コードを入れてメール送付した
□ 受理通知を確認した
□ レセプトシステムに算定設定を行った
□ 毎年4月:翌年度の賃金改善計画書を作成した
□ 毎年6月30日まで:計画書を地方厚生局に提出した
□ 毎年8月31日まで:実績報告書を提出した
□ 対象職員の変動があった場合:変更届を提出した
□ 月次請求時:ベースアップ評価料の算定件数を管理療養費算定件数と照合した
□ 計画と実績が大きく乖離した場合:特別事情届出書を速やかに提出した
訪問看護ベースアップ評価料は、令和6年度診療報酬改定の中でも特に重要な賃上げ施策です。I と II の選択は、計算支援ツールを使えば機械的に判断できます。複雑に見えますが、フローを整理すると以下のシンプルな結論になります。
実際の運用に移ったあとは、賃金改善計画書と実績報告書の提出スケジュール管理、レセプトへの算定設定確認が特に重要です。記録・請求業務のデジタル化も合わせて進めることで、算定漏れリスクを最小化できます。
届出を先延ばしにするほど、得られるはずの財源を失い続けます。本記事のフローチャートと計算支援ツールを使って、今すぐ自ステーションの届出区分を確認します。不明な点は地方厚生局への事前相談を積極的に活用してください。
なお、届出後の算定漏れゼロ体制を整えるために、訪問記録の当日集約と請求業務の自動化も合わせて検討する価値があります。看護レポは、LINEで送るだけで請求CSVが生成される訪問看護向けサービスです。フリープラン0円から始められます。 フリープランで算定漏れゼロを試す →
地方厚生(支)局への届出は、メール提出後に審査が行われ、問題がなければ「受理通知」が返送されます。受理にかかる日数は地域・時期・提出内容によって異なりますが、一般的に提出から2〜4週間程度を見込んでください。
年度初め(5〜6月)は届出が集中するため、処理に時間がかかる場合があります。計画書提出期限(6月30日)の直前に提出すると、受理が7月にずれ込む可能性があります。余裕を持って5月中に提出することが推奨されます。
届出が受理された月の翌月1日から算定開始が原則ですが、年度初めの特例措置として、令和6年6月21日までに受理された場合は同年6月1日から算定できるという経過措置がありました(初年度のみ)。令和7年度以降は通常のルールが適用されます。
算定開始日はレセプトシステムへの設定で反映されます。受理通知を確認したら速やかにシステム設定を行い、設定日と受理日の整合性を確認してください。
Q1. ベースアップ評価料の届出は、年度途中からでもできますか?
A. できます。ただし、月の途中から算定を開始することはできません。届出が受理された翌月1日から算定が始まります。
例えば5月20日に届出が受理された場合、算定開始は6月1日です。早めに届出を完了させることが損失を最小化するポイントです。
Q2. ベースアップ評価料は、非常勤スタッフへの賃上げにも使えますか?
A. 使えます。パートタイム・非常勤を含む「対象職員」全員の賃上げに充てることができます。非常勤スタッフへの改善額は常勤換算比率に応じて計算するのが一般的です。特定のスタッフだけを除外することは認められません。
Q3. 届出後に算定区分を変更することはできますか?
A. 要件を満たす限り変更できます。例えばベースアップ評価料(I)のみ届け出ていたステーションが、後から(II)の要件を満たした場合は追加で届出できます。
逆に、賃上げ率の要件を維持できなくなった場合は(II)を取り下げ、(I)だけに変更する届出が必要です。
本記事の情報は令和6年(2024年)診療報酬改定に基づいています。報酬改定は2年ごとに行われるため、最新の情報は厚生労働省の公式ページおよび所管の地方厚生(支)局でご確認ください。
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